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転校生がやって来た
「おい、転校生が来るらしいぞ!それも女子!美人だってよ!」芦屋大雅が、誠の席の前に座り興奮気味に報告する。
「へえ、この時期に転校生なんて珍しいな」誠は興味なさそうな感じであった。愛想の無い返答を返しながら、鞄の中から一限目の教科書を出す。表紙には高2古典と表記してある。
「お前って本当に女子に興味ないんだよな。結構イケメンなのに、なあ今度、俺とナンパしに行こうぜ」芦屋は週末になると、引っ掛け橋と言われる名所に出掛けては、ナンパをしているらしい。
「いや、俺は……、いいや、そういうの興味ないから」誠は片目を瞑り少し鬱陶しそうな顔をした。
「ちょっと芦屋くん!誠くんを変な道に連れていかないでよ!!」二人が声の方向を見ると、クラスメイトの播磨恵子の姿があった。
「あちゃ、嫁はん登場か……」芦屋はお茶らけた感じで呟く。
「なんだよ、それ……?」誠は呆れた顔を見せる。
「誠くんは、そんなナンパなんてしないよね?」恵子は覗き込むように誠の顔を見つめる。
「ああ、そんな事してるより、勉強しているほうが有意義だわ」誠は頬杖をついて校庭を見下ろした。体育の授業が始まるようで、体操服姿の女子が戯れている。
チャイムの音が鳴り響く。担任の教師が教室のドアを開けるのを合図にするかのように生徒たちは一斉に自分の席に着席する。
担任と一緒に綺麗な黒髪の少女が姿を表した。その途端、教室の中はざわめきに包まれる。
「なんだ、あれは妖精か?」芦屋が、なんとも間の抜けたような感想を口にした。だが、それを聞いて笑う者は誰もいなかった。彼の感想は、あながち間違いとも言いにくいものであったのだ。
白く綺麗な肌、大きな瞳に筋の通った高い鼻。形の整った唇、胸は小さめではあるが、そこはまだ高校生、将来に期待したい。
「う、ううん、男子達よ、落ち着け!それじゃあ、自己紹介をして……」担任は、転校生にバトンを渡す。
「おはようございます。乙女塚 唯といいます。宜しくお願いします」軽く微笑んではみたが、なんだか素っ気ない挨拶であった。
「それじゃあ……、あの窓際の男山の隣の席に座って……」担任がそう言うと、唯は誠の隣の席に移動した。ちなみに男山とは、誠の事であった。
「よろしく……」唯は軽く微笑んで、お辞儀をする。
「ああ……」誠は興味なさそうに返答をした。そのやり取りを芦屋は羨ましそうに眺めていたのであった。
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