騙し婚 mimic

　おや？もうお帰りなのか、どうも僕の邪推だったようだ。しかし、車から降りたのは旦那一人だ。奥方はどうした？
　旦那の瞳が涙で潤んでいる。うら寂しさが分厚い後姿に漂っている。もしかして、奥方と別れたのか？出かけたのは奥方を見送るためだったのか？
　どうしてこんなに僕が他人のことに拘るのか、自分にもよく分からない。慣れ浸しんだ夫婦喧嘩の日常が突然壊れたからなのか？それとも、長く続くはずの結婚生活が突然終わったからなのか？その確かでない喪失感が、その予感が、なぜか他人である僕の心に襲い掛かってくる。
　あれほど不快な夫婦喧嘩だったのに、本来なら晴れ晴れして当然なはずなのに、なにか貴重な宝物を失ったかのように、夜の公園の葉叢(はむら)をよぎて来る重たげな風が、虚しさを僕に添わせて止まない。なぜなんだ？