騙し婚 mimic

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「結婚して、ちっとも好いことがなかったわ。会社ではうだつが上がらないし、出世しないし、安給料だし、陰に隠れて賭け事ばかり。あんたはダメ男、クズだわ。ああ、つまらない人生だわ」 「もう、いい加減にしな。何度も同じことを言うなよ」 「そもそも、この結婚は騙し婚だったのよ、そのうち足の指にダイヤの指輪を付けてやるだなんて、出任せ言ってさあ…」 どうやら今夜も、無事に、お隣の夫婦喧嘩は終わったようだ。奥方から発せられる、出任せ言ってさあ、の一言で、旦那の声は、ぷっつり途絶えたのだ。    何事にも幕引きがあるように、この一言を以て今夜の夫婦喧嘩は終止符となる。そしてまた御丁寧にも、明日の夜も同じ文言が繰り広げられるという訳だ。見渡せば世間は、何事もなかったかのように夜の静寂に満たされているというのに。 「玲子さん、今の夫婦喧嘩、聞こえた?あれが毎晩続いているんだ」 「中古の携帯だけど、なんとか聞こえたわ。お隣の奥さんって随分凄みがあるわね。あれが毎晩続くなんて地獄だわ。旦那さんが可哀想。私なら離婚するけど。でも、どうして、こんな赤裸々な夫婦喧嘩を私に聞かせたの?」  
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