騙し婚 mimic

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「極端な話だけど、僕たちが結婚したあとに、あのような夫婦喧嘩が起こらないようにするには前もってどうすれば良いのか、君と話し合いたいと思ったんだ」 「あれは論外。私たちには無縁のものだわ。もしかして、裕二さんは夫婦喧嘩を怖がっているの?」 「そういうことではないんだ。あの夫婦喧嘩のなかで、出任せという言葉があったじゃないか、僕は君に浮気や不倫は絶対しないと誓ったけど、こうした将来の不確定なことを結婚前に誓うことは出任せだと思ったんだ」 「そんなこと、初めから分かっているわ。でも、浮気や不倫によって夫婦関係は、より強固になるかもしれないし、離婚になるかもしれないし、それは、そのときの夫婦関係次第だと思う。先のことなど誰にも分からないわ。そんなことを心配していては結婚なんて出来ないわよ」 「君もかなり冷めているな」 「ええ、冷めているわ。でも、私、結婚って素晴らしいものだと思うようになりたいの。お互いその為に努力しましょうよ。あの夫婦喧嘩だって、実際の処、マンネリ化した退屈な結婚生活のガス抜きを毎晩やっているようなものかもしれないし、暴力沙汰にならないだけまだ増しだわ…」 「あの奥方は、自分たちの結婚生活が、いつの日か終焉を迎えることに耐えられないんだと僕は思っている。それを脇の甘い旦那を追い詰めることで鬱憤晴らしをしているんじゃないのかな。実は、奥方にとって、口で言うほどの騙し婚ではないんだよ」 「喧嘩が終わったあと、あの夫婦はどうしているのでしょう。想像してみてよ」 「そうだな、より濃密な夫婦の営みが夜ごと繰り返されている。いや、更新されている、ということかな。安穏(あんのん)のため息という溶液を混ぜ合わせてね。でも、僕は彼らに言ってやりたい、耳障(みみざわり)りだから夫婦喧嘩は止めて欲しい。夜は君たちだけのものではないのだからと」 「そう、その調子。少しは熱くなったようね。じゃ、明日18時、例の場所で待っているわ」 「わかった。お休み」 「裕二さんもお休み…」
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