騙し婚 mimic

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 おや、音がする。隣の家の玄関ドアだ。夫婦そろって出てきた…。車庫に向かって歩いている。二人ともどこか悄気(しょげ)ているように見える。何があったんだ。車に乗って出掛けるというのか?  本当に行ってしまった。こんなことは初めてだ。それとも僕が寝入ったあと夜ごと出掛けているのだろうか。彼らは一体何処に行くんだろう。余計なことかも知れないが、なぜか気になる。  もしかして、行先はラブホテルなのか?悄気(しょげ)ていようが、こういう嗜みは大いにあり得る。うら若い僕と玲子すら何食わぬ顔をしてラブホテルに行っているんだからな。但し、僕たちとは目的が異なるのだ。彼らはマンネリの結婚生活に刺激を与えるため、僕と玲子は婚前のアバンチュール(恋の冒険)を楽しむためにだ。前者は後者と違って、絶えて叶わぬ回春(かんしゅん)への苦肉の果ての葛藤(かっとう)があるということだ。ちょうど長年にわたり船底にびっしりとこびり付いた藤壺(フジツボ)を一つづつ剥ぎ取る作業のように。
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