騙し婚 mimic

5/18
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「裕二、あなた、まだ起きているの?お隣の奥様、入院されたそうよ。長年の持病が急に悪化したんですって。今、自治会長から連絡があったの。わたし達、これから病院にお見舞いに行ってきます。ダディは、この地区の班長だから行かざるを得ないの。帰宅するまで留守番していて。お婆さまは、ぐっすり眠っておられるので起こさないよう注意しなさいよ」  僕はいつもの良い子の演技をする。結婚を控えた男にも関わらず。 「わかったよ。夜道、気を付けて。ママン、待ちなよ、僕が車を運転するから、ママンの運転、心配だからさ」 「いいんです、ダディが運転しますから。あなたは黙って寝ていればいいのです。結婚後のことでも考えながら夢見ていなさい。あなた達には明るい未来が待っているのですからね。じゃ行ってくるわね」 「どうしたんじゃ、騒がしいのう。あら、裕二ちゃん、どうしたん?寂しんかいの?泣きそうな顔して。でも、お婆ちゃんが居るよって安心しな。なんなら三味線でも弾いて小唄でも唄てあげようかの?恋の仲町って知っているかの。知らんじゃろうの。小夜更けて 辛気 新地の遠灯り 堅い石場の約束に 渡る土橋の 風荒く、こんな台詞、今の坊やには相応しいくはないと思うが、どうじゃろう」 「お婆さんってばさあ、聞いてもよいのかなあ、お爺さまとの結婚はどんなものだったの?」 「そんなもん、はっきりとは覚えておらんわ。なにせ十六のときで、初めての御見合いじゃったからの」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!