騙し婚 mimic

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「御見合いって、どういうものなの?」 「それは他人の紹介でな、お互い初めて顔を合わせて、相手と自分との相性を見ることなんじゃ。いや、さぐり合いかな。それは形式的なもんでな、実はすでに結婚することが決まっていることが多いんじゃ。お見合いの前に、お互いの名前はもちろん、年齢、身長、体重、趣味、趣向、それに、学歴、職歴、家系、家庭環境、資産、借金等などな、自己紹介に関わることを洗いざらし書いた釣書というものを両家で交換し合い、お互い納得し合っているんじゃ。当人同士の意思は二の次なんじゃよ。お婆ちゃんの場合もそうじゃった」 「釣書?魚釣りの釣りのこと?もしかして、相手を釣るためのものなんですか?」 「そういう要素はないとは言えんの」 「酷いなあ、信じられない」      「結婚って、多かれ少なかれそんなもんなんじゃ。それだけじゃない、お爺ちゃんは結婚した三日後に、陸軍に召集され、大陸へ渡ったんじゃ。それから三年後に帰ってきた。ところがの、戦地で年増の女と出来ちゃってな、その女を連れていたんじゃよ。お婆ちゃんは、玉ゆらの露も涙もとどまらんかった。もう、離婚しかないと思うた。でも、行く処がなかったんで、破れ宿とはいえ、仕方がないから三人で暮らすことになったんじゃ。そのうち、裕二ちゃんのお父さんが生まれると、その女にも子供が生まれた。ある晩、女はその子を連れて黙って出て行ったんじゃ。住みづらくなったんじゃろう。そういうことで、お婆ちゃんの結婚生活は初めから波乱万丈じゃった。それに比べれば、裕二ちゃんの結婚生活はパラダイスなんじゃ。そう思っとる。あら、もう寝てしもうたんか、可愛いのう」
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