騙し婚 mimic

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 止してくれ、そんな大昔の結婚話は、今の僕には、なんの参考にもならない。それより、隣の旦那のことが気になる。あのルーチンワークにも等しい夫婦喧嘩が一気に中断するとなると、旦那の精神状態は晴れ晴れするどころか深刻な打撃を受けるのではないのかと思うんだ。そのとき孤独は最大の危機となる。自殺にさえ至るかもしれないのだ。旦那が気の毒だ。  あの隣の窓辺はいつになく暗い。旦那は寝付いたんだ。いや、きっと声を押し殺して泣き崩れているんだ。さぞかし、あの夫婦喧嘩が懐かしい想い出として瞼に浮かんでいることだろう。  そんなことなら、僕が奥方に成り代わって、夫婦喧嘩のお相手でもしてやろうか。ずつと耳が腐るほど、あの夫婦喧嘩を聞いて来たんだ。僕は、奥方の台詞も、それに(しゃべ)るときの抑揚、声質すらも、すっかり覚えている。真似をするぐらい簡単なことだ。
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