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第1話 家族
2週間ぶり、僕らの巣に戻ってきた。非日常の浮かれ気分から現実に戻され意気消沈しながらも、なぜかホッとする気持ちになる。
「この土産は実家に送るのか?」
遊んでばかりいたのに疲れてて、帰国してから2、3日。片付けしてはぼんやりするを繰り返していた。ようやく買ってきた土産を整理してたら佐山が話しかけてきた。
「ああ。今日郵便局に行ってくるよ。佐山のもあったらついでに送ってやるよ。あ、おまえの実家のだよ」
母と妹には、バリの有名化粧品を送るつもりだ。父親には一応お酒を買った。気に入るかは知らんけど。
「いや、俺はいいよ。兄貴は海外だし。他に家族はいない」
「……そっか、ごめん」
「そこ、謝んなくていいから」
そう言って佐山は僕の額にキスをした。
佐山には両親がいない。あいつはあまり話したがらないから詳しく聞いたことはないけれど、学生時代に亡くなられたらしい。
たった一人の身内、会社員のお兄さんは海外赴任してるそうで、僕はお会いしたことないんだ。佐山も連絡してる様子はない。
僕はいつか、佐山が話してくれたらいいと思ってる。それを待ってればいいと。
郵便局の帰りに夕食の材料を買う。明日は事務所での打ち合わせで新宿に行くし、久しぶりにしっかりとしたものを作ろう。もちろんあいつが好きなものを。
「やっぱり日本人は和食だな」
夕飯は最近気に入ってる料理研究家のレシピで和食を作った。初心者でも簡単に美味しく出来るのがいい。
「バリのインスタントラーメン、買い込んでたくせに」
「それはそれ。まあ、あんたが作ったのは何でもうまいけどな」
いつものように嬉しそうに平らげていくあいつ。その笑顔に僕は安堵する。昼間、余計なことを言ってしまって、少しだけ後悔してたんだ。
僕は隣に座る佐山との距離を詰める。
「どうした? 欲しくなったか?」
佐山は僕の肩を抱きしめる。深い黒曜石のような瞳を切れ長の双眸が縁取っている。その瞳に魅せられるように僕は唇を求めた。
「うん……んっ……」
あいつの大きな手が僕の顎を抱え込み、エロい唇と舌で僕のそれを存分に貪る。僕は熱い吐息を漏らしながら両腕を背中に絡ませしがみついた。
あいつは僕をソファーに沈め、敏感な場所を器用な指でまさぐる。たまらずに声を上げた。
「ん……さやま……あ……」
あいつの猛り立ったものが僕を貫いていく。その感覚が僕をいつも夢中にさせるんだ。あいつの彫りの深い顔が僕を凝視している。そう思うだけでゾクゾクするよ。
「好きだ……」
たまらずに僕はそう呻く。佐山はその唇を塞ごうと、また熱い口づけを僕にくれた。あいつの腕のなかで、僕はまた、絶頂へと達した。
「倫……。俺は、あんたがいれば幸せだから……」
ようやく落ち着いた息遣いになって、あいつは僕にそう囁く。僕の思ってたこと、お見通しなんだな。僕もおまえがいれば幸せだよ。
僕らは世界で二人きりの家族だものな。
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