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第2話 アルバム制作始動
休みボケした頭を一気に覚ます都会の喧騒。帰国して一番思ったのは、今は冬だという事実だった。
程よく混んだ電車に乗って新宿に向かう。佐山は空いてるか満員を希望してたので中途半端な混み具合に不服そうだ。
「お土産持ってきたのか?」
「もちろん。社長や水口さんには必須だろ。あ、新宿のスタジオに青山君、いるって言ってたから帰りに寄るな」
僕のマネージャー友達、青山君。パープルシャドウっていうヴィジュアル系バンドのマネさんだ。彼には色々世話になってるし、僕の貴重な情報源。数少ない業界の友人だから、大事にしないとね。
事務所で社長や担当の水口さんと会い、今後のスケジュールを詰めた。夏にはアルバムを出したい。その野望を叶えるための大切な打ち合わせだ。
水口さんは僕らがこの事務所にお世話になった時からずっと担当をしてくれている。この事務所では実質的ナンバー2。三十代後半かなと思うけど、もう少し年上かもしれない。とにかく頭が切れるお方。
そんな切れ者を前にしても、音楽の話となれば佐山もシャキッとする。真面目な表情も素敵だ。音楽のスイッチが入ると僕もファンのスイッチに切り替わって胸がきゅんきゅんするんだ。
「じゃあ、お二人ともこういうところで大丈夫ですか?」
はっ、見とれてる場合じゃなかった。僕もキリッとしなければ。
「レコーディングの場所ですが、Bプランとしてここも考えています。仮抑えって可能ですか?」
今回はミニアルバムと違って曲数は倍だし、期間もお願いする人員も増えてくる。煮詰まってしまったとき、気分転換が必要だ。日程が押しちゃうことあるしね。
「ああ、ここは良いですね。当たっておきましょう」
僕は佐山と目を合わせ頷く。さあ、いよいよ始まる。あいつもこのためにかなりの新曲を書き留めてきた。どれが世に出るのか、どんな風に味付けされるのか今から楽しみだ。
打ち合わせが終わり、佐山とは別行動に。僕は青山君に会う他にも用事があった。来月、佐山の誕生日なんだ。昨年のクリスマス、僕は佐山にシルバーのネックレスをもらった。そのお揃いを誕生日のプレゼントにするんだよ。
イニシャルのトップがついたシルバーのネックレス。僕のにはあいつのイニシャルが付いてるから、あいつのには僕のを付ける。ふふん、あいつ、どんな反応するかな。
「僕にお土産なんて、感動しますー!」
めっちゃ大したものじやないのに青山君はとても喜んでくれた。でも、僕にはもっと驚いたことが!
「今度、結婚するんです。式は身内だけだけど、シャドウの連中やバンド繋がりの仲良しとパーティーするんで、佐山さんと来てくださいね」
青山君の隣で微笑む彼女は髪の長い美人さんだった。お土産に女性用のボディーミルク持ってて良かった。
でも、結婚かぁ。青山君、笑顔が眩しかったなぁ。そんな姿を見ていると、不思議と自分も幸せな気分になる。僕もはやくあいつの元に帰ろう。
「ただいまっ」
玄関ドアを開けると、良い匂いが僕の鼻腔に飛び込んできた。佐山が夕食を作ってくれたようだ。
「おかえりー。今夜は鍋にしようぜー」
真夏から真冬になって、開いてた毛穴もビックリして閉じてしまうほど寒い。そんな表現をしていた佐山。寒いの苦手なんだよな。鍋はあいつらしい選択だ。
「いいね」
エプロン姿のあいつ。これが何故かかわいくて写真撮りたくなるよ。だけど、この姿はSNSには上げない。僕だけの宝物だ。
「鍋で暖かくなったら、次はベッドで熱くなろう」
お玉を持ったまま、僕を抱きしめて囁く。敏感に反応する僕を楽しむようにあいつの濃厚なキスが降ってきた。少し離れてただけなのに、もうこんなに愛しい。僕も両腕を背中に回して力を込める。
「電車で変なことされなかった?」
キスをしながらそんな質問をするこいつ。確かに以前、1度だけ痴漢されたことがあるけど、基本おまえだけだよ。僕に触ってくるのは。
「おまえがいなくて寂しかったよ」
「へへっ。また触ってやるから」
「ばかっ。電車ではいいよ」
再びあいつの舌が僕の口のなかで暴れだす。はあはあと荒い息を吐きながら、あいつの愛撫を受ける。
真面目な表情も好きだけど、僕を抱く時のエロくてセクシーな顔はもっと好きだ。
「あ……んんっ……」
まだ夕食には時間がある。佐山は鍋よりも先に、ベッドで熱くなることにしたようだ。
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