第5話 雪の舞い散る街

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第5話 雪の舞い散る街

 佐山の誕生日、あいつは諸々満足してくれたようだ。  料理(例の城山先生のレシピ)もプレゼントもついでのチョコレートまで凄く喜んでた。もちろん……あっちもね。クローゼットのあとはバスタブに連れてかれたよ。誕生日には何してもいいって思ってるから困る。  いつものようにスタジオでレコーディングを頑張ってたある日。その日は朝から一段と空気が冷たくて、昼過ぎには雪が舞うようになってきた。  横浜の赤レンガのそばにあるスタジオは、新宿より垢抜けてて僕は好きだ。洋楽をやる人には人気のあるスタジオで、機材もレトロなものから最新のまで揃ってる。 「じゃあ、今日はここまでにしよう。サンキュー、お疲れ様」  サポートメンバー達に佐山が声をかける。みんな、満足と安堵を混ぜたような表情でバタバタと片付けだした。 「明日は雪になるかもしれません。電車や交通状況で来れないようなら連絡下さいね。こちらもキャンセルの場合は早めにお知らせします」  僕は一人ひとりにもしもの時の連絡先を確認する。雪が酷いと車も危なくなる。 「大変ですね。マネージャーさんも」  そう労ってくれたのは、今回からサポートしてくれてるベースの八神さんだ。僕より若くて整った顔立ちの彼。事務所の推薦で来たんだけど、佐山が気に入ってすぐお願いすることになった。 「いえいえ、皆さんに何かあったらそれこそ大変ですよ。八神さんも無理しないで大丈夫ですからね」 「うーん。そうですね。今のってるから、続けたいところだけど、自然には逆らえませんからね」  なんて爽やかな笑顔で言う。サラサラヘアをかきあげる様はまるでアイドルみたいだ。 「八神、今日も良かったよ。また明日な。倫、帰ろう」  とんとんと八神さんの肩をたたく佐山。他のメンバーと共に僕らもスタジオから外へと出た。 「少し歩かないか? 雪が心地よい」 「赤レンガ倉庫の辺りが綺麗だな」  僕は佐山と手を繋ぎ、倉庫街を歩く。ちらほらと舞う雪が赤い煉瓦に映えて映画のワンシーンのようだ。  吐く息が白く口許を覆う。ダウンジャケットを通して冷気が体を侵食してきた。 「くしゅんっ!」 「寒いか?」  僕のくしゃみに慌てた佐山が肩を抱くように腕を回す。相変わらず大袈裟な奴だ。でも、お陰でほんわかしてきた。 「ありがとう。大丈夫だよ」  僕はすぐ横にあるあいつの黒曜石みたいな瞳を見上げる。そうと知ってか、佐山は僕の頬に唇を触れさせた。また少し、心と体が暖かくなった。 「帰ろうか。暗くなるとヤバい」  僕は頷く。雪が少し強くなってきた気がする。アパートまでは電車ですぐだけど、大降りになると困る。佐山は僕を守るように駅まで歩いてくれた。  ――――今のってるから。  確かに彼の言う通りだ。今は行けるとこまでガンガンやりたいところ。明日、積もらなければ良いんだけどな。  
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