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夜の帳が下りる、閑静な住宅街の外れの一角。誰からも忘れ去られたような場所の、古い一軒家。そこから静けさとは程遠い雰囲気が漂っている。
男の怒号と少女のすすり泣く声が、傾いた窓の隙間から漏れ出ていた。
すると一発、男の拳が少女の頬を突く。同時に少女は一瞬だけ悲鳴上げ、床に倒れ込んだ。
頬を押さえ唸る少女に、男は容赦なく次の一発、また一発と叩き込み、白い肌はやがて紫色に変色し腫れ上がっていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
小さな声でひたすら謝る。しかしその言葉は絶え間なく続く男の怒号と暴力で掻き消されてしまう。
どれくらい時間が経っただろうか。男が飽きて布団についた頃、少女は倒れた床に目をやると血が染み込んでいた。
何事もなかったように立ち上がり、濡らした雑巾を準備すると、涙をこぼしながらそれを一生懸命に拭き掃除をしだした。
「綺麗にしなくちゃ、また怒られる。早く、綺麗にしなくちゃ」
少女は頬の痛みなど既に忘れているようだ。
それから夜中までずっと血を拭き続けていた。
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