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学校に行かなくなってからというもの、父の暴力はついに顔にまで及んだ。紫色に腫れて顔は醜く、最早帽子を被っても隠し通せるか怪しい程だ。
それでも買い物には行かないといけないため、マスクもして外へ出た。
そんな辛い生活も、御神標様のところに行けば、ほんの一瞬、母を感じた気持ちでいられる。それが私にとって唯一の生活の拠り所だった。
ある日、いつも通り買い物を済ませお供物をして帰ってくると、父が家にいた。
「あ、今日は帰りが早いんですね」
「悪いか?それよりお前、酒がないんだ。余った金で今すぐ買ってこい」
「は、はい」
咄嗟にそう返事をし、再び家を出た。しかし私はあることに気が付いた。
お供物を買ったせいで酒を買えるほどのお金は既になくなっていたのだ。
どうしようと悩んでいると、すぐに閃いた。
「お供物だ」
急いで向かった先はスーパーではなく御神標様のいる祠だ。ここには確か日本酒が置いてあった。
案の定、日本酒と酒器が並べられており、運が良いことに栓はまだ切れていない。
私は手を合わせお祈りをした。
「おみしべさま、ごめんなさい!お酒を頂きます!」
老人の言った通りに作法を済ませ、酒瓶ごと持って帰った。
これでおみしべさまもきっと許してくれる。
家では父がテレビを見ていた。私が帰るとすぐに日本酒を取り上げる。
「へぇ、これなんぼで買うたんや?」
「二〇〇円くらい、それしかなくて」
「安っ、マジかよ!セールかなんかやったんやな、運がいいな俺は」
父は嬉しそうに栓を切り、酒瓶ごと日本酒をラッパ飲みした。
その間私は夕飯の支度をし、出来上がったころには既に父の酔いはピークに達していた。
「今日は飯が格別に不味いわ!味が薄いんとちゃうんか!?」
「ごめんなさい!」
空いた酒瓶で私を殴り続ける。数発で酒瓶は割れてしまい、破片が私の体をさらに傷つけた。
今日は酒が回っているからいつも以上の暴力だ。頭は何度も傷つけられた。体は既に見るに耐えない。
酒瓶で殴るのに飽きたのか、床に放り投げると、今度は一発、父の拳が私の頬を突いた。
しかし次の一発、また一発と叩き込む。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
父の怒号と、私の悲鳴。私は絶え間ない苦痛に限界を感じていた。
やがて父は飽きて布団についた。
私はいつものように涙をこぼしながら血を拭き取った。
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