0人が本棚に入れています
本棚に追加
母が味わった苦痛と同じ苦痛を私は味わい続けた。しかし父は巧妙なことに、顔は殴らず胸や腹、洋服で隠せる部分を痛め続けた。
中学二年生の私が、学校で虐待を疑われないためだ。だから季節を問わず常に長袖の制服を着ていた。
学校に出る前には必ず父はあることを私に言った。
「いいか?絶対に他人に告げ口するんやねえぞ?したら、分かるな?」
「は、はい。お父さん。絶対に喋りません」
そう言うと父は私の頭を強く撫でた。ゴツゴツして大きくて、優しさの欠片も感じない無機質な冷たい手。母の手とは真逆だった。
家の外に出れば唯一の安息を得られる。重い足取りで通学路を辿っていると、後ろから肩を叩かれた。
びっくりした私は一瞬肩をすくませる。恐るおそる振り返ると、そこには友人がいた。
「おはよ、美幸!」
「あ、おはよ!」
友人であることに安堵した私は無理矢理笑顔を作り挨拶を返した。
その時思わず制服の袖を伸ばした。
「美幸?いつも思ったんやけどもうすぐ七月終わるのにそれ暑くないん?」
不思議に思った友人が尋ねてきた。
「暑いけど、ほら私、日光浴びるとアレルギー出るけさ」
「そうなんや、大変やね」
一応そういう理由で通っていて、友人も先生も一年以上これで隠している。絶対に知られてはならない。
最初のコメントを投稿しよう!