御神標様

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 帰路。特に三人で会話をするわけではなく、ずっと私を後ろに置いて二人で駄弁(だべ)っている。  しかし古い自動販売機を通り過ぎる直前に、唐突に私に話しかけてきた。 「あ、ねぇあんた、お金なんぼ持ってる?」 「え?せ、千円くらい」  それは夕食の買い出しのお金だ。 「じゃあさ、うちらにジュース奢ってくんない?お金忘れたんよ!」  この時、彼女らに所持金を告げたことに激しく後悔した。 「ごめん、これは買い出し用のお金やけん、勝手に使(つこ)うたら怒られる」 「いいじゃん、たった二〇〇円くらい!怒られんって」 「友達やろ?そんくらい勉強せんと!」  二人の威圧が私を押し潰そうとしている。震える手を抑え、鞄から財布を出そうとすると、父の顔が脳裏をよぎった。  父から暴力を恐れ、ほぼ無意識に拳を握り二人に言い放った。 「無理!これはお父さんのお金やけん!自分で()うて!」  数秒の沈黙、二人はまさか私が反撃することを予想しておらず、唖然としている。それも束の間、すぐに一人が私の胸ぐらを掴み上げ怒鳴った。 「調子乗んなてめぇ!美幸の分際で生意気言いやがって!」 「ダメなもんはダメ!」  しばらく私がもがいているともう一人が私の鞄に手を入れ素早く財布を抜き取った。 「でかした!はよ札抜いたれ!」 「すっくな!でも千円札持っとるやん!」  千円札だけを抜き取ると胸ぐらを離し、走り去って行った。 「どうしよう、殺される。殺される!」  父の恐怖に駆られ、すぐに二人を追った。 「あいつ、追ってきてるやん!」 「意外と足速いよ?」  しかし逃げている最中思わず千円札を手放してしまい、風が近くの森林へ運んで行ってしまった。 「あ、しまった」 「なんしよんね!ここ入れん森よ、もう無視して行くよ!」  千円札を諦めた二人はそのまま遠くへ走り去った。 「ここは...」  千円札が飛ばされて行った先を眺める。ここは危ないからという理由で子供の立ち入りが禁止されている森だ。  でも、千円札がないと何も買えない。何より父が許さない。そう思った私の足はすぐに動いた。
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