御神標様

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 諦めてその場に座り込む私。すると今度はどこからともなく声が聴こえた。  ―――こっちへおいで  それはやわらかく、包み込むような女性の声だ。いや、この声を私はよく知っている。 「お母さん?」  母の声に似ていた。しかし姿は見えない。  ―――こっちへおいで  私は大粒の涙をこぼしながら、懐かしい声の主を探した。 「お母さん、どこ?お母さんなんやろ?」  ―――こっちへおいで  脇目も振らず追いかけていると、古い山道を見つけた。ひどくひび割れ、雑草が生い茂って歩きにくい石畳だ。もう何年も手付かずの様子のその道は私にとっては希望の道だ。  しかし、母の声はそれから聴こえなくなった。 「お、お母さん!どこ!置いていかんで!」  周囲を見渡しながら母を探していると、側で佇む小さな祠が目に入った。そこには割と新しい日本酒と酒器が並べられてある。  不思議に思った私は祠の中を覗こうとすると、後ろから何者かに肩を叩かれた。 「きゃああ!」  咄嗟に叫んで手で振り払った。しかしその主は普通の老年男性だった。 「おやおや驚かせてしまってすまん、こんなところに子供がおるとは珍しくてな」 「あ、こちらこそごめんなさい」  人がいることに安心した私は急に恥ずかしくなってペコペコと頭を下げた。 「いやいやいいよ。でも、子供は入ったらダメって親からも言われとるでしょ?何しに来たんだい?」 「実は...」
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