友人

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 「お母様の日記? 女学校時代の物ですか?」 「さようでございます。  どういうわけか私の荷物に紛れ込んでおりまして……その、お信じ下さいますか……夢の中で美沙子様が一生懸命探し物をされておりまして、ばあや、私の女学校時代の日記を知りません? と仰るのでございます。どんなに探してもないので困っているのだと。  それで私は、自分の荷物の中に紛れ込んでいるのかもしれませんから、探しましょうか? と申しましたら、もし見つかったら、圭一さんに渡して貰えないかしら。と仰ったのです。できれば早い内に。と」  圭と隼人は顔を見合わせた。三日前に圭が語った夢の話と一致する。 「信じるもなにも、私も同じ夢を見ました。日記が見つかったら私の所に送りますと、お母様が仰ったのです。  五年生ということは、退学直前の物ですね。この年の七月に、麻上のお祖父さまが亡くなられて、父が爵位を継ぎ、九月に母が嫁いだのですね。  ばあや、この頃他に何かありませんでしたか?」  ハルは少しだけ考えて、あの頃は……と口を開いた。 「使用人も私以外に五人ほどおりました。住んでおりましたのも代々伝わる広いお屋敷でしたが、冬からずっと臥せっておいででした大旦那様が亡くなられたのを機に、手放すことにしたのでございます。大旦那様とお親しかった方が、お屋敷を気に召されておいででしたものですから、とんとん拍子に話は進みました。今でもお屋敷は当時のままの姿です。  他の使用人は、勤めを希望する者には他の勤め先を探し、家に戻る者共々今までの礼として幾らか持たせて、別れました。  そうして男爵ご夫妻と大奥様、私とが新しいお家に移ったのでございます。  美沙子様は当時女学校五年生で、あと少しなのだから卒業してからお嫁にいらっしゃいと旦那様は仰いましたが、美沙子様は旦那様をお支えしたいのだと聞かず、八月の夏休みを期に退学され、嫁いでいらっしゃいました。それはそれは美しくお可愛らしい、女の私が見ても思わず溜息が出る美少女ぶりでした」  ハルの目は輝いていた。その目を圭に向けて懐かしそうに細めた。 「大奥様も美沙子様も、華族様でありながら質素で堅実な方でした。家事も私が手伝いをしながらお二人でこなされておりましたし、家の修繕が必要になれば、簡単なことなら旦那様がなさっておいででした。本当に仲の良い、素敵なご家族でした。  美沙子様が嫁がれて丁度一年目に、圭一様を身篭られていることがわかり、旦那様も大奥様も大喜びで。  あぁ、そう、その時、ちょっと気になることがありました」  ハルは夢から覚めたような表情で、圭に顔を向けた。 「気になることとは?」 「旦那様が、美沙子様に似た女の子が欲しいと仰ったのですが、美沙子様はその言葉になぜか怯えたような表情を見せられたのでございます。ほんの一瞬でしたから旦那様は気付かれませんでしたが。  そうして、この子は男の子でなければ。と、仰ったのです。  私はてっきり、跡取りとして男の子をお望みなのだと思っておりましたけれど、後に美沙子様が、女の子は駄目なのだとはっきり仰ったのです。駄目なのよ、私に似た女の子は絶対に駄目なの。と。  なぜですか? と伺いますと、無言で首を振られて、おそらく独り言だったのでしょう、男の子には興味がないはず……と、小さな声で」  圭が、チラとこちらを見た。新城礼子のことを考えたのだろう。 「お母様のお友達が見えられることはあったの? 私の記憶では、一度もないけれど」 「一度もございません。  私は十の頃から麻上男爵家に勤めておりますから、美沙子様のことは生まれた時から存じております。ご実家の戸川家にも何度も伺っておりますから、ご家族様も存じ上げております。  美沙子様はご両親様に、皆とは平等に仲良くするようにとの教育を受けておりましたので、どなたとも仲良い代わり、特別親しい方もいらっしゃいませんでした。  ただ、美沙子様は美しいだけではなく、お優しかったのでどなたからも好かれました。毎日お手紙を頂いて、中にはお家の郵便受けに自ら届ける方もいらしたようです。誰もが美沙子様の一番のお友達になりたがっておいでの様子でした」
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