昨の朝

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昨の朝

「どうして、 カンジが、そこに いるの、、」 わたしは 操縦式人型機動兵器 ヒューマノイドアーマーウエポンのコックピットから 一瞬にして目があった 敵の主力人型機動兵器の 操縦席の人物に 驚愕する。 ハウワ母星艦隊の指揮官を表す エンブレムをつけた 白い人型機動兵器に乗る わたしと、 アダーマー帝系艦隊の指揮官だけ が乗る 黒の人型機動兵器の貴方。 両者のアーマードウエポンの 手にするアトミックサーベルが 交わり、弾かれ そして、互いが睨み会うと 相手が180度 向きを変換して主戦離脱した! 「貴方も、そうだったのね。」 その機体を凝視して 全てを悟る。 敵の機動体に貴方がいる事で 示すことは 只1つ。 貴方も、旧消滅地球の あの時間軸、 ポイント・スネークで 『ファーストアップル』を捜索 していた わたしと同じ 密偵だったという事 その瞬間だった。 生まれて初めて 抱いた、 わたしの影牢のような 思慕たる疼きが、 最も憎くむべき 相手から生まされていたという 残酷な運命を 思い知らされたのは。 その皮肉さに コックピットで、笑ってしまう。 ここでは 付けては いないはずの ルージュを拭うように 前の夜に彼と重ねた 唇の 背徳を消せるわけが無いのに わたしは 漆黒の空間に消えた 黒の機体の残像を みっともなく 追いかける 感情に いつまでも笑ってしまった。 母星の敵帝。 互いにその筆頭指揮官が 一族同士。 知らぬ間に迎合したのが 早すぎたのか、 知ってしまった今では 何もかも遅い。 本来 最も憎くむべき相手を、 それまでの 倍の速度をもって 慕わしく焦がれる胸の疼きが 恨めしかった。 『全初動機兵に、告ぐ。敵の主機 動兵が全線離脱の為一時撤退!』 一斉通信を投げて 自分も戦線を離脱した わたしは 一気にワープゾーンに 入ってハウワ母星艦隊が停泊する コロニーに帰還した。 ハウワ母星とアダーマ帝系銀河は 宇宙覇権を巡って 長い時間軸を戦い、 現在も銀河間戦の真っ只中。 コックピットから 出ると無言でドックも後にする。 成人したわたしは 今回が初出撃で、 これから上官になる次兄のもとへ 報告に行く。 クリアウインドウの向こうを 見れば、漆黒の宇宙。 見慣れた窓の風景は 全く変わる事がない。 それこそ、夜も朝も。 旧消滅地球で見る ポイントスネークには 朝日が上り 黄昏が色なし 月が掛かる夜がくる。 今日というタイムゾーンの 最終任務は、 成人を迎える事で 終わる 旧消滅地球での任務。 時間を逆行し 『ファーストアップル』の 捜索奪取のため コールドスリープに横たわって 時間の波を遡る。 「来てくれる?カンジ。 やさしい夜の人。 来てほしいの すてきな黒い夜なはずだから。 もしも必然なら わたしの彼を あの場所に よこして、、どうか神よ。」 出逢った瞬間に貴方とは 離れる事が わかっていた世界で、 最初からハッピーエンドじゃ ない事は わかっていたのに。 こんな形の真実を知るなんて。 「カンジも時間を遡っている 帝系人だったなんて。」 なら、 わたしが貴方のかわりに 未曾有の嘘をついてあげる。 そうすれば たくさんの笑顔を 持ち続けながら 貴方達は 生きていけるのでしょ? だから、 もう祈らなくても 大丈夫だと思う。 「昨日の夜を最後にって、 思ってたのに。皮肉だわ。」 あの月夜。わたしは、 貴方の背中を見送って 貴方の前から消えることにした。 この 影牢のような母星の肩書きを 疑いながら、 沈んだような朝がくれば 笑い顔さえ浮かべて わたしは、 漆黒の服を鎧にする あなたが いないベッドに 昨日も一人寝していた。 夜ごと 紡ぐ言葉に 真実はない 貴方だから 解っていたのに。 暖かな温度を感じてしまうと 薄く笑ってしまうの わたし。 でも、 貴方の浮かべる顔は 別だったのね。 わたしは この窓から飛ぶ事にした。 貴方との時間は 記憶になって細胞に 読み聞かせるわ。 昨日、 月夜に掛けた ため息は 全て溶けて 今はない。 でも もう一度、最後の旅に眠るの。 今尚、 何故か途方もなく 寂しくなることも あるのは 母星への愛なのかしら。 予定調和の嘘を吐く 貴方への予感のせいかしら。 「カンジに、この夜会えたら わたしが持つデータを 貴方に全てあげる。さよなら」 わたし。
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