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記憶鮮明
『一条さん、申し訳ないけれど
今日は1人お客様のヘルプを、
お願いしてもいいかしら?』
そうして目の前に
ブラックのファイルを渡される
わたしは、
この時間軸の女性上司に
言いつけられた
あの日のオフィスに立っていた。
カンジと初めて接した
あの日の。
これも
「リブァイブしたのね、、」
どうやら、さっきまでの
イレギュラーダイブが
影響を残しているらしい。
いつの間にか、
少し前までは毎日着なれた
社内服のブラウス姿を
ガラスに映して
わたしは、ため息をついた。
わたしが未来で過ごす
ハウア母星。
上級貴族の子息子女は、
成人前に必ず
特別任務を受け、
旧消滅地球に
タイムリープをする。
貴族の責務として送られた
旧消滅地球で、
わたしは
大学卒業の経歴を
母星の操作で偽造され、
任務遂行をしやすい様に
決めた就職先は、
元官僚が立ち上げた
情報管理企業だった。
メガデータを切り売りする
世界情報のシンクタンクで、
金額さえ払えば、
希望する情報を提供するという
実に特殊な職場。
『わかりました。担当ではない
顧客対応ということですね。』
そもそも、民間企業が情報を
売って利用するのだろうか?
と疑問視していたけれど、
扱う情報は、
リアルディープデータ。
普通に政府が活用をしている
機関で、
例えば一度テロ事件が国外で
発生すれば、
その国の大使館スタッフが、
発生国に渡航している現在の
国民の洗いだしから、
テロ組織への有効交渉人物の
特定と、連絡先をすぐに
弾き出しにくる程。
その様な管轄省庁部所でも、
天才的な能力を、ノンキャリで
突出させて派閥を作った人物が
天下りを兼ねて設立した
企業だったから、
本当に顧客は様々。
そんな、、
わたしは其の日、女性上司から
呼ばれ
1人の客対応のヘルプを
指示された。
それは
わたしが最近ターゲットに
決めた人物。
『いつもはサトウさんの、
お客さまなのだけど、彼女、
今日は休んでいるでしょ?
譲夜咲様だから、よろしく。』
『譲夜咲様、、』
金額に見合った情報を
買うだけでなく、
売ることも可能な裏も締める
我が社には、
あからさまでなくても
反社会的団体のフロント企業で
あろう会社も顧客リストされて
いた。
反社な相手が売る情報を、
いろんな部署が買ってもいく。
『あの、譲夜咲様からの希望は
ブラックでしょうか?』
わたしは、つい上司に訊ねる。
ブラックデータ。
所謂、裏社会のデータ。
『違うわ、ホワイトよ。』
『わかり、ました。』
噂に聞いていた、
譲夜咲カンジ。
スーツのシャツ袖や、首元に
刺青を隠す
ブラックインナーが見える
スタイルからは勿論のこと、
明らかに若頭の雰囲気の
傷が顔にある男。
それでも体格も顔も上等な、
男の色気を纏う彼は、
社内で人気がある顧客だった。
『あと、一条さんは大丈夫だと、
思うけど。顧客との私的な
関係は御法度よ。いいわね。』
そして、
彼の噂は見た目と仕事だけでなく
我が社の女性と複数、
男女関係を持っているという
情事なネタ。
『わかっています。』
わたしは端的に答えて、
渡されたファイルを腕に
上司のデスクを離れた。
そして
廊下に出た途端
『ちょっと貴方、譲夜咲様の担当
するの?止めときなさい。
わたしが、するから。ほら!』
1人の女に声を掛けられる。
『いえ、上からの指示ですから、
勝手なことは出来ません。』
『後で報告しておくわよ。譲夜咲
様とは別に他人じゃないのよ。』
わたしは、
なるほどとタメ息をついて、
『本来なら、いらぬ争い事に
巻き込まれたくないので、
わたしも担当したいわけでは
ありませんが、指示違反は
出来ません。失礼します。』
わたしは、
叫ぶ女を振り切って
オフィスのエレベーターに
乗り込こむ。
『そろそろ、あちら側の情報も
入手したいと思っていたから、
手間が省けた、、わよね。』
そうして、
ファイルを握り締めて、
さっきの女の
情念に燃える瞳を思い出し、
体の芯に
何かを感じつつも、
『間違えるな。わたし。』
わたしは1つ覚悟をした。
情報の岸辺で
集まるデータを入出力しながら、
メガデータの中、
捜索物の行方を探す。
手に入れる為、
危険を冒しながらも
一心不乱で
世界情報の海を泳ぐわたしは
その傍ら、
あらゆる場所に足を向けるうちに
いつの間にか
この過去なる世界、、
自分達の時間には既に
消滅した星の
様々な姿に魅了されていた。
母星とはいえど、
故郷には無い広大で、
個性的で豊かな大地。
予想不能に移り変わる空と季節。
溢れる水が輝く鮮やかな
悠久なる自然。
全てが
リアルビジョンで造り出され
投影されるのみの、
マザーコロニーには無い物
ばかりで、
例え
既に消えた世界であっても、
何よりも
こんなにも
平穏な日常に、、心が踊った。
そして、
母星コロニーではすでに
廃れ無くなった事は他にも、
ある。
それが直接的生殖活動。
男女の性行為による
子孫の存続という段階を
既に手放した
ハウア母星人、宇宙人類は
身体細胞を
有事の再生医療に使用する為に
保管する際、
卵精子も同じく採取する。
子孫は
培養液内で誕生させ、
育成もさせるのだ。
消滅地球だからこそ、
出来る隠密行動。
わたしもゆくゆく
トライする、それ。
『最初から、掴む。』
情報収集に、
緊張が
握るファイルにも伝わる。
いつもみたいな
無機質な機械を相手に
情報を引き出すのとは全く異なる
方法。
『母星で教えられたハニー
トラップを使う日がくるなんて
思っていなかったけれど、』
と、
呟く『自分に』シンクロする
わたしは
複雑な気持ちで
V.I.P.プライベートルームの
扉を開ける。
そこに座るのは?
あの日のは
譲夜咲カンジ様なのか?
それとも
カンジなのか?
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