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あとの夜
もしも生まれ変わって
新しい
貴方にまた会う時があるなら
朝が来る度
おはようと微笑んで
未来を、結んであげると
願っていた。
「時間逆行できる最後の軸ね。」
わたしは
使いなれた自室のバスタブから
身体を起こす。
コールドスリープの座標は
おなじ態勢である事が必須。
だから、どうしても
身体を水中に浸して横たえる所、
バスタブになる。
そのまま熱いシャワーを浴びて、
今も余りナチュラルメイクは
得意じゃない
わたしは
鏡を見つめてルージュを引く。
自分で買った
空色のカーテンを開けると
月が浮かんでいるのは
夜にコールドスリープに
沈めば、目的の時間軸も
同じ時間軸に
なるから。
そのまま
カンジから渡されていた
カードキーを握りしめて
二人の逢瀬の部屋へと
向かう。
若頭がいくつも、
それこそ女達の数だけ所有して
いそうな豪華で無人の部屋。
カードキーは
まだ使えた。
それもそうね
昨夜の決意は、わたしだけの事情
で貴方には何時もの夜だったの
だから。
何より笑ってしまったのは
突然シャワールームから
音が生まれた時。
「カンジの座標は、このシャワー
ルームだったってわけよね。」
朝が来る前に貴方が
わたしの前から消え去るわけよ。
とカーテンを開けて
眼下に広がるイルミネーションに
呟いた
わたしの背後から貴方は
「さあ来いよ、物憂げな顔した
真実への道案内人。それとも
無情な死の先導役か?アヤカ」
言葉を投げて
わたしを窓に縫い付ける。
そのまま首筋に
噛み切らんばかり食い付かれた。
「そうね。わたしが死んだら、
カンジにあげるから、
この身体を千切って、星屑に
すればいいよ。そうすれば
わたし達が知る漆黒の空も 、
綺麗な風景になるかもね。
そんな宇宙を、誰もが恋して
きっと帝系の太陽と、カンジ
を崇めるのでしょうよ。」
ほんの数時間前
ここから未来と呼ばれる
真っ黒な空の中
操縦式人型機動兵器の首元に
アトミックサーベルの切っ先を
交えたばかりの
わたし達。
そのさらに
1つ夜の下。この摩天楼の一角で
互いに愛撫を繰り返した
頸動脈を覆う薄い皮に
貴方はガリガリ
牙を立てた。
「死神に娶られたと?本気か?
死して、この因果な獣に
全て遺すと?アヤカの星を
食散らかす死神と成り得る
俺に何もかも差し出すのか?」
ズクリと
わたしの首に埋まる
貴方の口腔に啜りあげる音と
言葉に酩酊する。
「いいわ。星との縁を、
家名を捨てて、アヤカでいる。
だからせめてこの瞬間、
わたしを愛して欲しいの。
ただ、カンジでいて?
アヤカでさえ偽りで
カンジなんて存在が嘘でも
わたしは カンジに愛されたい」
帝系人との戦闘に
操縦式人型機動兵器は必須。
大気の無い宇宙での
身体保護兵器の役割
だけではない。
彼等は直接食らう事で
相手の脳内情報を
征服する能力を持つ、
旧消滅地球の太古に生した
ヴァンピール。
今際の極、
ヴァンピールの餌食に成らぬ様
機体もろとも玉砕する
棺でもある。
「ああ、甘いな。どこもかしこも
波に揉まれた小舟のように
打ち砕けそうな鼓動が俺に支配
されたままじゃないか?ん?」
貴方は一層窓に縫い付けた
身体に覆い被さって噛みつく。
「夜明けはまだ。
貴方の耳に雲雀の声が
しないならアヤカを愛して。
でなければ、どうしてあの時、
一滴も残さず飲み干してくれ
なかったのか聞いてしまう。」
本当は
窓に縫い付けられたままの
わたし気が付いている。
東の方角の夜雲が
深い光の筋で
継ぎはぎになりつつあって、
最後に貴方と交わる夜空も
摩天楼の明かりが
成りを潜めているのを。
靄のかかる
ポイント・スネークの
山の頂から
いつも貴方との逢瀬を裂く
爪先ほどの光が
横たえる暇も
惜しいほど喰らい合う
貴方とわたしの身体の隙間から
差し込むのを。
「さあアヤカ。俺の恋人の薬は
なんて心地よく効くものか。
こうして口付けて逝くがいい」
朝まで貴方がいるというの?
「もしかしたら、そこに毒が
残っているかもしれなくても?
それでいいなら、アヤカを
カンジの冷たい唇で殺して。」
貴方に支配されるか
貴方が消えるか
こうして
『ファーストアップル』は
ポイント・スネークに眠ったまま
長い夜空に朝日が昇る。
わたしは貴方に
ナイチンゲールの声を告げるの
かしら?
カーテンを閉めて
コールドスリープで永遠になるの
かしら?
どちらにせよ
「さよなら」
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