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「マサト?何?」
電話の相手はバンドのベース担当のマサトだった
『ちょっと仕事頼みたくてさー』
マサトがこっちの仕事を依頼してくるのは初めてだ
アットはスマホを持つ手を変えた
『いまから送る画像の男調べてほしいんだ。その写真は六本木で土曜の夕方4時頃撮った。喪服を着て、高校生くらいの男の子を連れてた』
「高校生?このコか?」
1枚だけ、若そうな男の子の顔が見切れてる写真があった
『車は黒のセダン。写真あるだろ?』
アットはダウンロードした画像から開いていった
「これね。ナンバーもしっかり写ってるじゃん。お前も何でも屋になれるんじゃね?」
マサトは、アットの冗談には反応しなかった
「手がかりはこれだけ?」
アットが何気なく聞くと、電話の向こうで息を飲む気配がした
『手がかりになるかはわからないんだけど、3か月くらい前に、六本木の【TEATRO】っていうクラブ貸しきってファッションショーの打ち上げに参加してる』
「ファッションショーってことは、滋さんがらみか?」
すぐに沈黙が返ってきた
アットは(しまった)と感じた
「大丈夫、滋さんの情報までは必要ない。悪かったな」
『あ、ああ。じゃあ、頼むな』
「おう。じゃあ後でな」
そうだ
そもそも今日は7時からスタジオ入りなのだから、あと2時間もすれば直接会える
他のメンバーには知られたくない話なのか、それとも相当急いでいるのか…
アットはギターを担いで店を出た
スタジオ入りまで六本木に寄るくらいの時間はある
アットは早速、マサトから聞いたクラブに行ってみることにした
店は1階のワンフロア
大きめなハコだ
アットがビルを張っていると、一人の男性が、ビルの隙間に入っていき、裏口とみられる油汚れのついた鉄製のドアに鍵を差し込んだ
「すみませ~ん。テアトロって店ここですか?」
男がドアを開けるか開けないかのタイミングで声をかけた
「入り口は表側だけど、オープンはまだだよ」
「そうなんですね~。でもどうにかして入りたいんだけど…」
「あ?」
男はその時初めて、アットのことを【ヤバイヤツ】だと認識したようだった
だがアットは、男が答えている間に距離を詰め、すでにドアに足を挟んだ状態だった
「聞きたいことがあるだけなんで、ちょっとナカ、いいですか?」
アットは親指で店内を示すと、男の肩をつかんで引きずり込んだ
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