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「は…い…」
鮭児のことを好きだと自覚してから、自分がゲイだと意識したことはあった
だが、自分以外の人間の中にもゲイがいて、自分がその対象になるかもしれないとは、今の今まで想像すらしていなかった
相手は優しそうなサラリーマンだった
まだお酒を頼んでいなかったアットのために、店員を呼んでくれた
「じゃあ、モスコミュールで…」
店員が意味ありげな視線を二人に投げ掛けた
そして、モスコミュールが入った銅製のマグカップの持ち手をアットに向けるタイミングで「キクチくんはオススメだよ」と言った
「ちょっ…マスター!」
隣のサラリーマンが、店員の口を押さえた
彼が【キクチくん】らしい
「いや、大きなお世話かもだけど、君、初めてっぽいから。だったらキクチくんみたいなタイプがいいんじゃないかなーと思っただけ!」
「もう!余計なこと言わないでください!」
キクチに追いやられて、マスターはカウンターの反対側に行ってしまった
「え…っと…」
キクチが気まずそうに首筋を掻いた
そして、おずおずと
「あの…初めてって、本当?」
と聞いた
アットはうつむいたまま、「はい」と答えた
※※※※※※※※※※※※
マサトは、アットが調べた情報を元に、プッシールーム2号店のスタッフの面接に来ていた
幸い、飲食店やカラオケ店の経験があったため、真剣に面接してもらえることができた
驚いたのは、意外にもバンドマンの経験が有利に働いたことだった
「スピーカーとマイクを設置する予定なんですが、いいものを使いたいと思ってて、そういう機器に慣れてる人のほうがいいので」
と、面接相手は言った
その面接相手が、当時18歳のリンだった
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