レイジとゼンジ

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「うおぉぉぉぉ…」 あまりに衝撃的な過去に、エチゼンは唸ることしかできなかった 「でも、家を出てからはずっと会ってなかったんだよね?それなら…」 「そうなんだけど、どうやら俺の引退がネットニュースに上がったみたいで…」 「ええ…そんな有名人だったの?」 「うん、俺も知らなかったんだけどさ…」 ヒヤが恥ずかしそうに目を伏せた 大きな黒い瞳に、長いまつげが布団のように覆い被さった 確かにこれは… エチゼンは、息を飲んだ いままで気がつかなかったのが不思議なくらいで、どれだけテンパッてたんだ、自分、と思った 陶磁のような白くて滑らかな肌、少し肉厚な唇、きれいに整えられた眉、茶色い瞳の中に見える、真っ黒な瞳孔 ウケとして、人気が出るのもわかる、美しいだけではなく、妙な色気があった エチゼンは、ヒヤが出演したというAVを無性に観てみたくなった しかし、すぐにその欲望を打ち消した 心の底から悲鳴が聞こえてくるくらい苦しんでいる人を目の前に、そんなイヤらしいことを考えた自分を軽蔑した 「それで、そのネットニュースを見て、AVに出ていたことがバレたんだ?」 ヒヤが頷いた 「それで、どこからか、俺がプッシールームで働いてることを聞き付けたみたいで…」 何か嫌なことを思い出したのか、ヒヤがまた身をすくめた エチゼンには、ヒヤの背中をさすってやることしかできなかった
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