3.

4/4
前へ
/14ページ
次へ
「我々は天の庭を許さない!」 「カルト教団は立ち去れ!」 「愛子ぉ!」 「ルリちゃん! あなた騙されてるのよ!」 「喜美子、出てこい! 今日こそ連れて帰るぞ!」  あの日以来、北門の外では毎日のように、拡声器を通した騒音が響くようになった。その人数と音量は日に日に増し、抗議文や石、生ゴミまでもが投げ入れられる。  お庭の上空にカメラ付きのドローンが飛ぶようになり、私達はなすすべもなく逃げまどった。外から調達している物資の輸送トラックに隠れ、男が敷地に乱入する騒ぎまで起きた。  不安の波はひたひたと足元に忍び寄る。突然泣き出したり叫んだりする花嫁を見かけるようになり、争いこそ起きないまでも、お庭は暗くギスギスした雰囲気に包まれていった。 「大丈夫だよ、何も心配はいらない」  天様が一言そう言ってくれれば、みんな落ち着くかもしれない。だけど、天様も向日葵さんも、ここ数日姿を見かけない。楓さんはだいぶ平静を取り戻したものの畑に出ることはできず、室内で黙々と調理や裁縫の仕事をしていた。  あんなに明るく、穏やかなお庭だったのに。その脆さと危うさに戸惑い、私は自分の心を(とな)うために、深呼吸を繰り返した。  そして、真夏のように暑いある日。私たち花嫁が恐れていた悪夢が、現実のものとなった。  天様が、警察に連行されてしまったのだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加