4.

1/4
前へ
/14ページ
次へ

4.

「あなたたちにとって、天様は、天堂朋子(ともこ)容疑者ですか?」  食堂に集まった花嫁たちを前に、向日葵さんが声を張った。どなったわけじゃない。全員の耳に届くよう、少し大きな声を出しただけだ。それでも、精神的に不安定になっている花嫁たちの多くは、ビクリと肩を揺らしてうなだれた。  天堂朋子容疑者。天様はそんなふうに呼ばれ、複婚を認める法改正を利用して書面上の婚姻関係を結び、信者を洗脳支配している悪の教祖だと報道されていた。 「天様は、……天様です」  私は泣きそうな自分をなだめ、やっとそれだけを絞りだした。  嫌なことは何も聞かず、笑顔でうなずきながら話を聞いてくれた初夜。私が眠れるまで背中を優しくたたき、お母さんの思い出の子守唄を歌ってくれた。地獄のような日々から救い出してくれた天様は私にとって、唯一無二の、天様だった。 「ありがとう、柚子」  向日葵さんが差し出した手を、私はぎゅっと握った。彼女の右手首には、シワと水平に走るいくつもの深い傷痕がある。初日に私を迎えてくれた向日葵さんがそれを隠さずにいたから、私もずっと外せなかったリストバンドを捨てることができたんだ。  みんなが顔を上げてくれた。同じ気持ちだよ、と、うなずいたり微笑んでくれる花嫁たちに、向日葵さんは語りかけた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加