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 楓さんが戻ったのは、予報通りの雨が降り始め、夕飯を終えた私たちがそれぞれの部屋で本を読んでいるときだった。いつも朗らかな彼女には珍しく、青い顔で震えている。 「だいぶ落ち着いたんだけれど、私はまだすることがあるし、柚子、一緒にいてあげてくれる?」  肩を抱いて楓さんを連れてきた向日葵さんは、左半身がずぶ濡れだった。たぶん二人で一本の傘をさし、楓さんを真ん中に入れてあげたんだろう。タオルを渡すと向日葵さんは疲れた笑顔で受け取り、再び傘をさして雨の中に戻っていった。 「楓さん、着替えよう?」  共有服は着心地がいいけれど、楓さんも右肩が少し濡れている。無表情でベッドに座る彼女の襟のボタンに指をかけると、バシンと手を払われた。 「喜美子じゃない……っ」 「楓さん?」 「あたしは喜美子じゃない!」 「楓さんでしょ、分かってるよ。私は柚子。ここは、天様のお庭だよ。何にも怖いことはないよ」  初めて会ったときに天様が言ってくれた言葉。それが、楓さんの不安も溶かしてくれればいいのに。  瞳を揺らした楓さんは、欠けた前歯が痛むみたいに両手で口を押さえてしくしくと泣いた。  私たちはその夜、子どもみたいにくっついて眠った。倍くらい生きてる楓さんの背中をトントンしながら、私は一晩中、お庭に降り続く雨の音を聞いていた。
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