初恋の記憶 1

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 結局そのときにシャープペンは見つからなかったけれど、その日の夜に下野くんがいきなり家に来た。 「これ、滝見先生が準備室で預かってた」  見つからないまま、私が部活に行ったあとも下野くんは探してくれて、音楽の先生に聞いてくれたんだ。 「ありがとう」 と受け取ったけれど、そのあとなにを言えばいいのかわからなかった。 「……昼休み、ピアノ弾いてる音楽室で」  下野くんはそう言って自転車に跨った。 「うん」  おやすみも言わずに、自転車で遠ざかる下野くんの背中を見ていたとき、またピアノの音が頭の中に蘇っていた。  部屋に戻ってから、ベッドに寝転んでピンクのシャープペンを電灯に翳したりしながら「昼休み ピアノ弾いてる 音楽室で」という下野くんの俳句みたいな言葉を思い出していた。 「音楽室にピアノ聴きに行ってもいいってことかな、昼休みに」声に出してみても、もちろん誰も答はくれない。  
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