初恋の記憶 2

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初恋の記憶 2

 月・水・金は昼休みに昼練がある。お弁当を食べたらすぐに行かなくてはいけない。だから音楽室に行けるのは火曜と木曜だけだった。  あの日から最初の火曜日、私は下野くんの俳句みたいな言葉を何度も思い出しながら、音楽室に向かった。  音楽室のある三階には、音楽室と音楽準備室、それから倉庫にしている教室が二つあるだけだ。昼休みにここに来る人もあまりいない。少し迷いながら、廊下を歩いて音楽室に近づいていたとき、ポロロンとピアノの音が聞こえた。  今度は曲の途中で、そっとドアを開けた。下野くんは、チラリとこちらを見たけれど演奏をやめなかった。「あぁ、本当に来てよかったんだ」とそのときやっとほっとした。  火曜と木曜だけ、独り占めのピアノコンサートは、一年の終わりからそうして始まった。  二年になってからは奏者と聴衆だけの関係から、火曜と木曜は音楽室で二人でお弁当を食べるようになっていた。クラスでは私たちは付き合っていると言われていたけれど、別に告白をされたわけでもない。でも月曜、水曜は部活が終わるのを待ってくれていて、一緒に帰ったりした。下野くんが塾に行く金曜以外は、二人きりで話す時間があった。 「昨日、弾いてくれたのなんて曲?」  音楽にまったく関心がなかった私も、少しずつピアノの曲や作曲家の名前を覚えるようになっていた。おかげで中間テストの音楽筆記の点数は少し上がった。 「あれは……僕のオリジナルというか、僕が作ってる曲。まだAメロとサビしかできてないけど」  下野くんはなんだか恥ずかしそうだった。 「私、好きかも。完成したら聞かせてね」  本当は「一番に」って入れたかったけど、なんとなく恥ずかしくて言わなかった。 「佐原にだけ聞いてほしいから」  下野くんは、恥ずかしそうなままそんなことを言ってくれた。  言った下野くんも恥ずかしそうだったけど、私もすごく恥ずかしくなった。  俯いて歩いていたら 「それで、完成したら歌詞つけてくんない?僕、曲は出てくるんだけど、言葉はなかなか」
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