初恋の記憶 3

1/1
前へ
/10ページ
次へ

初恋の記憶 3

 あのとき、どうしてあんなに嬉しい気持ちになってドキドキしたのかは、それからしばらくわからなかった。  『特別』だと感じたのかもしれない。私だけに聞かせたくて、しかも私が歌詞を書いていいなんて。  下野くんのことが好きだったかどうかは、よくわかってなかったと思う。でも彼のなかで特別になれたことが嬉しいと思ったということは、私のなかでも彼は特別だったんだろう。  初恋だったんだなとわかったのは、下野くんに会えなくなってからだ。  一度だけ、デートみたいなことをしたことがあった。下野くんがあの曲を録音したカセットテープを渡したいと言って。  部活が休みになった日曜日だった。なぜあの日、休みになったのかは覚えていないけれど、下野くんは素敵なデートコースを考えてくれていた。  映画を観て、ランチを食べて、飛行機を見に行った。そして稲川の河川敷公園であの曲が入ったカセットテープを預けてくれた。  なんの映画だったかは忘れてしまったけれど、ランチは商店街のお店の玉子サンドだった。  学校でも一緒にお弁当を食べていたのに、あのときはすごく恥ずかしかった。前に座っている下野くんが制服でなかったからかもしれない。  あの日、初めて彼が目の前に座ったときに、学校でない場所に二人でいることをすごく意識してしまった。  今さら十四歳のかわいい自分を思い出したのは、やっぱり地上からあの曲が聴こえたからだろう。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加