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その昔、或る所に至って人当たりの良い爺さんと婆さんが住んでいた。
或る日、二人は縁先で日向ぼっこをしながらこんな会話をしていた。
「なあ、じいさま。いつぞや食べた狸汁を死ぬ前にもう一度、食べてみたいもんじゃなあ」
「そうじゃな。あれはいかさま美味かったもんな」
「じゃからまた罠作ってさ」
「そうじゃな。やってみるか」
「やるがええ。やるがええ」
「そうじゃな。そうじゃな」
という訳で話が纏まったところで爺さんは早速、自分の芋畑に罠を仕掛けた。すると程なくタヌキがまんまと引っ掛かったので縄でぐるぐる巻きに縛って捕獲し、家に持ち帰った。
「ばあさま!これ見てみい!」
「やったな!」
「おお!ほんじゃあ、わしはこいつを煮る為の薪を集めて来るから!」と言って爺さんが杣山へ出かけると、婆さんは悪戯心を起こして爺さんが帰るまでタヌキを苛めてやろうと天井に吊るしてサンドバッグ宛らにポカスカ殴りだした。全く人前で善人ぶっている者は陰では何をやっているか分からない。お陰でとんだ目に遭っているタヌキの悲鳴を聞きつけてウサギがやって来た。
「おい!こら!」とウサギは叫ぶが早いか、ぴょんと勢いよく飛んで婆さんに体当たりした。
その突拍子もない出来事に婆さんは肝を潰した上にウサギの勢いに押されてドンと床に倒れ込んだ。その拍子に頭を火鉢にぶつけて伸びてしまった。
ウサギはその隙にぴょんと高々と飛んでタヌキを吊るしている縄に飛びつくと、縄を齧ったので縄が切れて床の上にタヌキがどすんと落ちた。そして縛ってある縄も齧って行ったので縄から解放されたタヌキは、痛みを押し殺してウサギに何度も何度も礼を言って、それからこうなった訳を説明したので爺さんと婆さんの悪行について話し合うことが出来、また人間との利害関係が一致しているのでウサギと共鳴出来、仲良くなった。
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