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「負けられないって……勝負じゃないんだから。」
くすくすと笑いながら、あたしは野村さんの胸の中で両手を伸ばし、腰へと回した。
「……でも、あたしを大切にしようとしてくれてるって感じて、ますます野村さ……和也のことが好き。」
「……っ!……めちゃ…うれしい。」
伝わってくる野村さんの鼓動がワンテンポペースアップ。
鼓動が早くなるくらいうれしいのかと思うと、あたしもうれしくて、トクトクと鼓動がペースアップ。
……ふふっ、おそろいだね。
「……一方的かもしれないけど、一目惚れして、運命の相手と思ったからな。大切にするよ。」
優しい手つきで髪を梳く野村さん。
胸の中も心地いいけど、この大きな優しい手の感触も心地いい。
「……本当にいいの?こんなめんどくさい苦手持ち。」
「いいんだよ。千晶だからいいんだ。」
本当にこの人は、素直にストレートに気持ちを言葉に乗せる。
「苦手ごとひっくるめて愛してやる。」
また耳元で甘く……
恐怖とは違うゾクゾクしたものが腰から背中へ。
そして、言葉に反応するかのように、一際大きくドキン!と胸がときめいて。
反射的に、野村さんを抱きしめる手に力を込めてしまうと……
それに応えるよう野村さんもぎゅうっとあたしを抱きしめてくれる。
……この人にとことん愛されたい。
そんな想いを馳せながら抱きしめ合い、「目を閉じて」と告げられ、甘い甘いキスを交わす。
苦手が克服できるかどうか。
今のあたしにはわからない。
でも、克服してみせる。
大好きな人のために。
END
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