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神社の参道と並行に走る遊歩道の両側に、ラグを敷き地面に座る者、テーブルに並べる者、古着、アクセサリー、玩具、陶器、思い思いに幾つもの店が連なっていた。
三々五々、そぞろ歩きの家族連れや女性達が、店先であれこれ話をしたり、品定めをしている。
こんな光景だったかも記憶にはなかった。
ミツキの足が止まり、肘がトンと当たる。
すぐ其処に古い木の長机に、古めかしい雑貨類が並べられ、小引き出しや鏡台、糸車など骨董品が置かれた店があった。
店主は硬そうな椅子に座って眼鏡を拭いていた。
ミツキはしゃがんで、テーブルの懐中時計を手にしている。
店主がゆっくりと立ち上がった。
こんな感じの親父だったか?少し背伸びをして辺りを見渡したが、それらしい店は見当たらなかった。
「大事に使って大事にすれば、そうしていつまでも時を刻んでくれる。永遠にな…」
永遠に…。
その声が耳の奥に響いた。
俺は思わず、オペラグラスを取り出していた。
「あの…これ、覚えてます?10年くらい前におじさんから買ったんだけど」
店主は手を伸ばして受け取ると、掌の中でしげしげと見てから、開いてぐるりと辺りを見渡した。
「これは…ん、確かシガレットケースと小箱と揃いのやつだったワ。しつらえ物で、この二重の透かしが実に精巧に出来ている。それにしてもお兄さん、銀は湿気に弱いんですぐにこう真っ黒になっちまう。汗をかいた手で触ってもいかん。今、一寸磨いてやるから」
店主はそう言うと、青紫色の瓶から液体を湿らせ布でそっと擦り始めた。
ミツキは、言ったことか。というような顔をして俺を見ると、一寸歩いて来る。と店先を離れて行った。
俺は、店主のごつい手が繊細な細工の隅から丁寧に拭き磨くのをぼんやり見つめていた。
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