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お局さんは給湯室にいた。私にサムズアップして見せる。
「その調子だと江本くん、手伝ってくれたみたいね」
「お気遣いありがとうございますー」
どうやらお局さんは私の気持ちに気づいて、ちょうど手が空いていた江本主任に声をかけて休憩コーナーによこしてくれたらしい。
私と……江本主任の気持ちに気づいて。
「今夜空いてたら、食事でもどうかな。実は前から木村さんのこと、気になってて…もしよければ、だけど」
赤面して、そっぽを向いた江本主任が言い出すのに、ゆうに30秒くらいかかった。
返事はもちろん、イエスしかない。
「おかげさまでイヤリング見つかりましたー!」
「よかったわね。で?」
「で?とは?」
わざととぼけてみる。
「しばっくれるんじゃないわよ。どうなの?なんか進展した?」
「えと……今夜食事を」
「よかったわねー!いいわね!がんばんなさいよ!」
背中をばしばし叩かれてうっ、となる私なんかおかまいなしに、鼻歌を歌いながらお局さんは遠ざかっていく。
しまった、食事のこと、社内のみんなに言いふらされたりしないだろうか。
ちょっとヒヤッとしたけど、キューピッドに文句は言えない。
楽しそうな背中。
ホテルに忘れ物の話、私に彼氏がいるかどうかを聞き出そうとしたからだと思うけど。
ひょっとして、ご自分がそういう思い出があるんじゃないですか、なんて。思ったりした。
「雨上がったわね」
「お疲れ」
「お疲れ様ー」
退社。足取りが軽い。これから江本主任と食事だ。
1階フロアへとエスカレーターで降りる。入口に向かう人達の流れから離れたところに佇む江本主任が片手を上げて、私も小さく胸元で手を挙げる。
それから耳元にさわる。
友達が褒めてくれて、お局さんにからかわれて、江本主任が一緒に探してくれたイヤリングがそこにある。
たまには探しものも悪くない。
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