見えない本命、見える二番目

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麻人の言葉を聞いて友達も納得したようだった。 「こりゃ摩訶不思議現象だ。 姿が見えていなければ、声も聞こえていないっぽいね」 「何か言った?」 「ううん、何も!」 同じ病室にて友人の声は聞こえていて、麻人の声だけ聞こえていないために変な感じになってしまっている。 汐見に怪しまれないためか友人は麻人の耳元に口を寄せた。 「声が聞こえないとか、そんな不思議なことってあるのかな?」 「特定の人が見えなくなるとか、そういう話は聞いたことがないけど」 麻人としてはこの現状を深刻に悩んでいた。 ―――もし俺の姿が本当に見えないのなら、やっぱり俺のせいだ。 ―――汐見が倒れる前に喧嘩をしたから、精神に支障をきたして・・・。 「ねぇ、麻人くん。 汐見に少し触れてみたら?」 「あ、あぁ。 そうだな」 麻人は言う通り汐見の隣まで歩み寄ると頭にポンと手を乗せた。 ―――汐見はこれが好きだ。 ―――いつもなら喜んでくれるはずだけど・・・? 期待を込めて汐見を見る。 だが汐見は相変わらずキョトンとしていて不思議そうにどこかを見上げていた。 「汐見、今どんな感じ?」 「どんな感じ? うーん、何となく頭に重たいものが乗っかっているような・・・?」 それを聞いた友人は深く息を吐く。 「こりゃ重症だわ。 ちょっと先生を呼んでくる」 「?」 終始不思議そうにしている汐見を残し、友人は病室を出ていった。 その間は他に残った友人が話を繋げてくれていた。 先生が来ると事情を話し、診察をしてくれたが特別に異常は見られなかったようだ。 ようやくここで医者の口から汐見に、本当に今ここに麻人がいると伝わることになった。 「麻人くん、本当に今そこにいるの?」 汐見は何となく状況を理解したが、表情はたっぷり困惑している。 「いるよ。 汐見の大好きな麻人くんが、ここに」 「・・・私のこと、からかってない?」 「そんなことをして何になるのよ」 「そうだけど・・・。 こんなドッキリとか、全然面白くないよ? 病室にカメラとかセットしていないよね?」 「してないって。 マジのマジ! 本当に麻人くんはそこにいるの!」 そう言って汐見の隣を指差す。 事情を説明したものの、それを信じるのかどうかは別の話だ。 「・・・先生」 友人が助けを求めるように医者を見た。 「まぁおそらく、精神的な問題だろうね。 まだ脳には解明できていない謎がたくさんあるから、こういうことがあってもおかしくはない」 それを聞いて考えた後、汐見は言った。 「・・・私、家に帰る」 「え?」 「流石に家に帰れば会えると思うから」 麻人と汐見は同棲していて同じアパートに住んでいる。 症状を信じられない汐見の中では麻人は今も家で待っていると思っているのだ。 「もう体調もよくなったから大丈夫だよ。 ね、先生? いいでしょ?」 「うーん・・・」 先生は麻人と汐見に視線を行ったり来たりさせながら何か考えているようだった。 「・・・まぁ、一緒に住んでいるのなら何かあれば対処できるだろうとは思う。 ただ如何せん精神的な問題だと思うから、更なる心労がかかればまた倒れるようなことがあるかもしれない」 「お父さん、お願い! 今すぐにでも家に帰って麻人くんをこの目で見たいの。 その後病院に戻れって言うならすぐに戻るから!」 ―――え、お父さん・・・!? ―――ま、まさか! まさかこんなところでカミングアウトされるとは思ってもみなかった。 それはあまりにも不意打ちだった。 先生も困惑している麻人を見て、初めて自分が汐見の父だと知らされたと思ったのだろう。 小さく頭を下げあっけらかんと言った。 「汐見の父をやっております」 「え、あッ! 娘さんにいつもお世話になっております!」 慌てて大きく頭を下げた。 本当はきちんと準備をして会いたかったもので、先生であり彼女の父である彼はそれを見て朗らかに笑っていた。 「こんなやり取りも今の娘には見えとらんのでしょうな。 悪いんですけど、この子の面倒を見てやってもらえますか?」 「はい。 もちろんです」 先生は穏やかな顔で汐見に向き直った。 「それじゃあ、退院の手続きをしよう。 ただ具合が悪くなったらすぐに言うようにな」
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