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茹だるような熱気の中、すえた匂いが漂っていた。
まるでそこだけ別次元かのように、府立公園には終戦直後を思わせるバラック小屋がずらりと立ち並んでいる。
その中の一つで、南部源太はむくりと身体を起こした。垢にまみれた寝起きの顔を、汚れた手のひらでごしごしとこする。
ただでさえ暑くて殺気立つ。寝不足に加えて、さっきから外で繰り返し自分を呼ぶ声に、南部の苛立ちは頂点に達した。
不機嫌な黒い顔を戸口から突き出すと、久方ぶりに浴びる太陽が目に染みる。辺りは白一色だ。
ようやく視覚が機能し始めると、青いビニールシートの下に一人の男の姿を認めた。
南部と同じような黒い顔をして、色褪せたキャップを阿弥陀にかぶり、伸び放題の脂ぎった白髪を後ろで一つにくくっている。
さすがにこの人にキレるわけにはいかない。ここで一番古株のノブさんだ。
同時に、片手で尻に敷いた封筒の感覚を確かめる。
ある、盗られてない。
南部の全財産だ。
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