ホープレス・ホームレス

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 ノブさんは膝に手をついて、前屈みでこちらを覗き込んでいた。 「(げん)さん。生きとったか」  冗談とも取れぬ軽口を叩いて、ニヤリと満面のしわを引いた。わずかに残った乱杭歯が口元から溢れ出し、その奥に粘り気のある果てしない闇が見えた。  気難し屋のノブさんが笑っている。さては、なにかよほど良いことがあったのか。  南部は玄関戸を開け放ち、布団の上にあぐらをかいたままボリボリと頭を掻いた。 「なんやノブさんかいな。えらいご機嫌やん」 「今日はちょっと頼みごとがあって来てん」  その物言いに、南部はよけいなことに巻き込まれると直感した。問い返す間もなく、ノブさんは前屈みのまま首だけで後ろを振り向いた。 「かまへんて言うてるわ。出てきぃ」  何がかまへん、のかは分からない。一言も頼みを聞くとは言っていない。  不安が的中するかのように、ノブさんの足元で黒い影が揺れた。  次の瞬間、見慣れない若い男が屋根の下に滑り込んできた。
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