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「帰れ」
言い訳を口にする前に、そう言い放たれると、俺自身の余計なお節介だという事を重々承知な上で、反抗心が湧き上がってきた。一方的であれど、気にして来たのに、たったの三文字で終わりだなんて、納得がいかなかない。
「どうせ良心の呵責なんだろうけど、帰れ」
俺は再び開けた口を、言葉を一つも放てないまま閉じた。彼の言う通り、今ここに居るのは気遣いと言う薄いベールを被せた、ただの利己主義。ただ、いつもに戻りたいという、己に忠実で利己的な本心を守る為の行動に過ぎない。
「あと、東と関わらない方が良いぞ」
「え?」
「まあ、もう無理だろうけど」
そう言いながら、志村は教室の隅に投げ捨てるように置かれている通学鞄を拾い上げた。
突然出て来た「東」という単語に、「恐怖」と言う文字が重なる。心臓をじっくりと握り込まれ、潰される瞬間まで締め上げられるような感覚が襲い掛かってきた。
「あいつはもうお前の事気に入ったから」
「は? 何言って……」
声が震えてうまく言葉が出せず、舌が滑る。こめかみ辺りで不協和音のような物が響いて、頭痛がする。
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