SWITCH

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 三階建ての旧校舎は、何処もかしこも倉庫となっており、年に一回の掃除以外は用無しのお荷物になっている。その中の二階にある長い廊下の突き当りにある旧音楽室。音を吸い込む防音壁は、腐敗した学生にとっては都合が良く、新校舎に移動されたグランドピアノもない、ただ広いだけの教室も何かと都合がいい。 「なあなあ、礼。何したい?」  カースト上位という言葉の王冠が良く似合う、傲慢で無邪気な笑顔を振り撒きながら、東は俺を覗き込む。笑むと同時に細くなる眼差しの奥底に、青灰色の不穏な炎が揺らめている気がした。 「知らねえよ、俺に振るな」  東にも、東の仲間にも、志村にも関わりたくない。そう言いたいのに、はっきりとは言えず、俺は視線を出入り口へと投げた。  東達がやっている事には賛同できないし、関わりたくないが、志村も志村だ。さっさと不登校になれば良いのに、のこのこ毎日登校してきて、苛めを真正面から受け止める。真正のマゾヒストか?  徐々に募って行く苛立ちを吐き捨てるように、 「俺、帰りたい」  と呟くと、 「じゃあサッカーしようぜ」  東がそう言いながら、ポケットからコンビニのビニール袋を取り出し、床に放り投げた。その行動の意味が瞬時に頭の中に再生されると、俺は東へと振り返った。
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