SWITCH

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 教室の前まで来ると、痙攣して敏感になったような指先が、ちりちりと熱くて痛い。俺はゆっくりと旧音楽室の扉に指先を引っ掻ける。冷たい金具の感覚がじわりと、現実として滲んでくる。少し力を入れて、ゆっくりと扉を開くと、音を立てながら建付けの悪い引き戸が視界を明るく照らしていく。  部屋のカーテンは全て開かれ、夕焼けの足跡さえ覆い尽くした深い群青の空が広がっていた。星も月も見えない、ただ雲の薄っすらとした闇色の陰影が空を流れていた。  志村はいなかった。  俺はいつの間にか詰まっていた息を、大きく吐き出して、膝から崩れ落ちると、その場に座り込み、背中を丸めて肺一杯に空気を吸い込んだ。  良かった、生きている。  ひんやりとした廊下についた手を見ればぴくぴくと指先は痙攣し、重く自分に掛かっていた不安が、放出されているのだと知る。俺は震える喉から安堵の息をもう一度吐いて、その場に頭を垂れた。額を床に擦り当て、目を閉じる。  良かった、何もなくて。全て消えてて。  ようやく明日、何事もなかったかのように朝起きて、学校に行く自分が想像できる。  俺は上体を起こして、もう一度音楽室を真っ直ぐと見詰める。  確かに誰もいない。 「だれ?」
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