SWITCH

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 不意に背に投げつけられた声に、身体が大きく震える。俺は慌てて振り返ると、思わず体制を崩して、その場に尻餅をついた。すぐ真後ろにいたそいつの上履きが、半歩俺へと近づく。  ゆっくりと顔を上げて、その月も星もない、明かりの乏しい闇の中でうっすらと見えてくる顔のおうとつに潜む陰影を追いかけた。彼は俺の顔を見るなり、しっかりとした眉の間に深い溝を刻み、明らかな敵意のこもる眼差しで、俺を睨み据えた。その眼光に、思わず身体が竦み、筋肉が硬直する。  どうして、こいつは、サブのはずなのに。  体中に張り巡らされた操り糸を締め上げるような、自由を奪う緊張感は、東の放つそれに似ている。いわゆる、ドムの放つグレイだ。  しかし、彼は違う。ドムじゃない。 「何してんだよ」 「あ、ぁ……」  理由を話そうにも、奪われた力にそんな気力は残っておらず、俺は言葉になり損ねた声を、ただ垂れ流すだけの壊れた機械のようになっていた。  怖い、怖い怖い、逃げたい。  何処からともなく湧き上がってくる恐怖心に、生理的な涙が浮かんでくる。  ――志村。
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