SWITCH

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「あ、悪い」  俺の様子を察したのか、志村は何かに気付いたように、はっと眉間の皺を解くと、その眼光から放たれる目に見えない力を身体の奥底へと引っ込めた。その瞬間、喉に詰まっていた何かが消え去り、一気に肺に酸素が雪崩れ込む。突然消えた圧力と、ようやく供給された酸素に、心臓がばくばくと激しく脈打ち、思わず咽て、俺は激しく咳き込んだ。  両手を床に突いて、肺の奥で突っ掛かっているそれを取り除こうと、大きな咳を繰り返す。じわりと滲んだ涙が零れて、唇の端から唾液が滴った。無様なんてものじゃない、屈辱なんてものじゃない。ただ、意味が分からなかった。志村から放たれたそれらしい気配。そして、その強力さは、明らかに東を陵駕していた。その事実全てが混沌と脳裏を不快にめぐっては、俺を圧倒する。  あいつはサブじゃなかった?  何度か深呼吸をしていると、何か温かいものが俺の丸めた背中を行き来する。志村の手だ。
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