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俺の朝は必ず鏡の中の自分を見つめながら、ある一言で始まる。
「スイッチ」
自分の両目をじっと見つめながら、コマンドをはっきりと鼓膜から脳の一番奥まで届くように、尖る声で呟くと、身体の中心のどこかが「カチ」と機械のような音を響かせた。
男女の性の外に、稀に生まれると言われるダイナミクスと言う性。それは思春期頃に現れ、検査の結果、四つの性に別れる事となる。一番多いのはノーマル。ダイナミクスという性を持たない一般人である。それから支配者のドムと従属者のサブ。一クラスに一人二人居るか居ないかの確率で生まれる性がそれだ。更に、その地域に一人いるか居ないかの存在が、ドムとサブの両方を持つスイッチ――それが俺だ。
洗面台の鏡の前で、自分の中にあるドムの気配をしっかりと確認してから、俺は前髪を止めていたピンを外した。
「お兄ちゃん、終わったらすぐ交代してよ!」
そう言いながら妹が割り込んでくると、ブラシを手に取り、髪を梳かしながら鏡越しに俺とよく似た勝気な大きな目をぎゅっと細めて睨んでくる。
「悪い」
妹を怒らせると、怖いと言うよりも面倒くさい。先に謝って退散するのに限る。俺はそそくさと洗面台を後にすると、リビングへと向かった。
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