SWITCH

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「大丈夫か?」  そう声を掛けられた瞬間、俺はその手を撥ね退けて、立ち上がる事ができないまま、後退る。しゃがみ込んでいた志村が、表情の読めない眼差しで俺を見つめていた。目の前に差し出された獲物の狩り方を、吟味しているような色さえ宿っていた。 「お前、何……? なんで」  そう問いかけると、背後の窓の外で、雲が流れたのか、ゆっくりと月明かりが差し込んでくる。板張りの木目を照らし、上履きの足元、制服のズボンの皺、それら全てがはっきりと、克明に夜の縁で明らかになって行く。  やがて月明かりは志村の顔を照らした。いつも目を逸らしていたせいか、はっきりと顔を見るのは初めてかもしれない。筆先ですっと描いたような鼻梁に、小さな小鼻。尖りのある顎に、何より印象的な堀の深い、整ったアーモンド形の双眸。髪型こそやぼったいものを感じる黒髪だし、今は傷つき赤く腫れている口元や額が痛々しいが、それを差し引いても、彼は精悍で整った顔立ちをしている。  初めて認識する志村の存在感に、圧倒されていると、 「伊波、どうしてここにいる」  低く唸るように、志村が呟いた。
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