SWITCH

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「あいつ、頭おかしいから」  そんなのは知ってる。  志村は肩に鞄を掛けると、もう一度俺を見下ろした。冷え切った青い双眸が、月の鈍い光を受けて、冷え冷えと凍てつき鋭利に研ぎ澄まされている。目の前の志村、そして内側から侵食するような、絡みついてくるような東の眼差しに、俺の唇が震え出した。 「伊波、お前……」  そう言いながら彼が一歩近寄る。俺はその分後退る。一歩二歩、ずりずり、と俺はその分距離を取った。そうしている内に、窓際まで追い詰められると、俺は浅くなる呼吸に縋るように、胸を抑えた。 「顔が青い」  そう言いながらしゃがみ込んだ志村の指先が頬に触れると、俺は力強く目を閉じた。目の端が痛くなる程強く目を瞑り、俯くと、 「伊波」  そう呼ばれ、志村の指先が俺の顎を持ち上げる。思わず目を開くと、彼の曇りない程真っ直ぐな眼差しにぶつかる。
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