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恐怖がはっきりとした手触りを持って、俺の胸の奥底に落ちてくる。その瞬間、東の先の読めない笑みが、志村の凍てつく眼差しが、頭と胸の奥深くに沈めたはずの記憶の蓋をこじ開ける。
不愉快。
痛い。
怖い。
痛い、怖い、痛い怖い痛い怖い、痛い怖い怖い怖い。
「やめっ、触るな!」
俺は手を振り払った。けれど、あいつは笑った。あいつは笑いながら、コマンドを呟いた。身体の根底を支える自身が破壊される感覚。打ち砕かれた自尊心と、残された傷が、痛い。痛い痛いたいいたい痛い痛い。
「やだ、やめ……」
「伊波、おい」
伊波。おい。伊波。ニール。伊波、プレゼント。
――良い眺めだ、もっと差し出せよ。伊波。
「伊波!」
鼓膜を劈く怒号に、身体がぶるりと震える。
我に返ると、そこには瞠目して俺を見つめる志村がいた。まだ雲に隠れないままの月明かりが、はっきりと彼の戸惑いを浮かび上がらせている。志村は俺の両頬を覆いながら、小さく伊波、と呟いた。しっかりとした親指の腹が、俺の頬を撫でると、湿ったものが頬に広がる。
俺は、いつの間にか泣いていた。
「……しっかりしろ」
「あ、ぅ……」
情けない呻きが喉から零れ、けれど、他に言葉を紡ぎようもなく、ただ零れそうな酸素を喉の奥に押し込めて、せり上がる喉の痛みを堪えた。
「伊波」
呼ばれていつの間にか下がっていた視線を上げる。ゆっくりと、彼の顎、唇、鼻先……と、丁寧に辿り、彼の青い眼差しを見つめた。
「……スイッチ」
――え。
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