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身体の奥底で、明らかに、カチリと何かが切り替わる。それは毎朝必ず確認する、自分の中の厳かで、誰にも知られてはならない、秘密の儀式の音。その音に、毛穴が一気に開き、汗が噴き出すと、真っ白な闇に思考がばらばらに砕けながら落ちていく。
「え……」
「やっぱり……お前、両性か」
いつから。どうして。なんで知ってる。いつバレた。何が俺の落ち度だ。
「セーフワード、何が良い?」
「何言って……」
「いいから。何が良い、酷い事はしない」
心臓がどくどくと脈を打ち始め、それは何に対しての反応なのか分からない。けれど、もう思考は考える事を拒絶している。
そんな中、優しい指の背で頬の輪郭を優しく撫でられる事だけが、唯一の、地獄に落とされた蜘蛛の糸のように感じられた。
舌の付け根からじんわりと滲む唾液を、ごくり、と飲み込む。俺と志村は暫く無言で見つめ合った。志村は投げ掛けた問いを手に、ただ黙って俺の解答を待っている。
「酷い事って……」
「伊波がこうやって泣いたり、震えたり、恐怖に苛まれたりしない事を約束する」
雲が動いたその影が、志村の顔に陰影をつけながら過ぎていく。
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