SWITCH

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「早く食べちゃって、礼」 「はーい」  ダイニングテーブルの椅子を引いて腰を下ろし、冷めかけたスクランブルエッグと、マーガリンも溶けないきつね色の冷めたトーストを齧る。そのそばで母親は出勤時間に追われながら、家事をこなしていた。  平凡のど真ん中ら突いたような、何の変哲もない朝の光景を、どこか他人事のように眺めながら、俺はパサついたトーストを咀嚼する。  こんなにも日常は平凡なのに、俺だけがいつまで経っても異質だ。 「行ってきまーす」  妹の声だけが扉の奥から聞こえてくる。それに呼応する俺と母親の声が「行ってらっしゃい」と重なり、今度は母親が慌ただしくスーツの上着を引っ掴んで出ていく。 「お皿水に付けといてね」 それだけ言い残すと、母親はテーブルの上にある車の鍵を肩掛けの鞄に放り投げ、 「行ってきまーす」  と、リビングを出て行った。俺は小さく「いってらっしゃーい」と呟きながら、目玉焼きに醤油を垂らす。俺は家のドアに鍵が掛かるのを聞き届けてから、テレビのリモコンを取り、電源を入れた。 『次のニュースです。先日六本木の雑居ビルの一画で、ドムによるサブへの暴行事件が発生しました。被害者の青年は一命を取り留めたものの重傷、加害者のドムの主犯を含む三名が……』  そこまで聞いたところで、俺はテレビの電源を切った。
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