SWITCH

33/46

196人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
 罪悪感、屈辱、手放しで受け入れられない感情に、胸が引き裂かれる程の痛みを背負っていた。あれほどサブを毛嫌いしていた自分が、その性の恩恵を受けて、男の前でよがり、男を欲していたなんて信じられないし、信じたくない。  不意に喉の奥が詰まるように鋭い痛みを発して、俺はわざと舌の付け根で唾液を溜め込むと、それをごくりと嚥下した。  やだ。いやだ。  悔しい、認めたくない。汚い。  目の奥が腕を擦るだけ起こる摩擦熱みたいに、熱くなってくる。 「伊波」  扉が開いて、部屋に入って来た志村と目が合う。志村は俺と目が合うと、少し瞠目してから、直ぐに静寂を宿した双眸で、俺にゆっくりと近寄ってくる。俺は逃げる場所もなく、壁にくっついて、小動物みたいに身体を小さくした。 「ごめん、痛いところあるか?」 「関係ねえだろ」 「ある」  空気を切るような、すっと鋭利な声が断言すると、俺は噛みつきたくなり、顔を上げた。 「あの行為は、一番負担を負うのはサブの方なんだ。それをケアするのがドムだ。関係あるに決まってるだろ」  そう言いながら膝を抱える俺の手に触れる、長く太い指先に、俺はなんと返せば良いのか分からず、沈黙して唾を飲んだ。アフターケアと言われる彼の真っ当な言い分に、反論できないのが腹立つ。なのに、俺に触れる指先が温かくて柔らかいのが悔しい。  相反する思いに奥歯を噛んだり、唇を噛んだりと、どんな顔をすれば良いのか迷ってしまう。そんな俺を見て、志村は何を思ったのだろう。月明かりのくたびれたような弱い光の中で、かすかに微笑んだ、気がした。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

196人が本棚に入れています
本棚に追加