SWITCH

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 ***  翌朝、気まずく重い足取りで登校すると、そこにはいつもと変わらない日常が流れていた。流血沙汰のいじめが発生していた学校とは思えない、穏やかで和やかなクラスメイトの空気に、俺だけが異質に存在している。  そして、志村の席だけが、ぽっかりと空白だった。  いつもなら、彼が俺よりも遅く登校するという事はない。だからきっと休みなのだろう。俺は横目でそれを確認してから、自分の席に座る。  昨日はひと際激しい暴力だった。きっと学校に行く事すら躊躇われる程、腫れてしまったのかもしれない。そんな事を思う反面、あの夜の快楽がじわりと熱を持ち蘇ってくる。  俺は頭を振ってその考えを追い出すと、机に上半身を伏せて、眠るふりをした。 「おはよ」  そう声を掛けられても「んー」とまだ半分夢の中ですという声を出して、人との関わりを避けていく。ぼんやりとした思考で居れば居るほど、鮮明に昨夜の記憶の輪郭が浮かび上がり、目と身体の奥が火照り始める。  初めて得た、サブとしての快楽は根深い事を、身を持って知る。俺は考えないようにと、何度も別の事に思考を変えてみるけれど、いつの間にか全てが脱線し、昨夜の彼の腕や、唇や、長い指先や、熱い吐息に繋がってしまう。  ――やっぱり、この性が嫌いだ。動物じゃねえか。  最も即物的で本能的な何かに成り下がった気がして、自己嫌悪に苛立ちが募る。  もう関わらない方がいい。  俺はそう自身に誓いながら、奥歯を噛み締める。あの快楽を二度と手に入れる事が出来ないのは、惜しい気がするけれど、それ以上に守るものが、俺の中にはあるのだから。 「礼、おーはよ」  知った声に、眠るふりも忘れて飛び起きると、俺の前の席に腰を下ろした東が、楽しそうに目を細めて俺を覗き込んでいた。不意打ちにどくりと心臓が一度大きく脈を打つ。
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