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右目の眼帯に、左頬を覆うガーゼ。固定された鼻は、明らかに頼りない骨を支えており、折れた事を物語っていた。見える唇は腫れ上がり、唇の端は赤紫色に変色している。辛うじて人の原型を留めて居るが、ハロウィンに売り出される怪物のゴムの被り物とそう変わらない。
「あれでも来るなんて、あいつ、どんだけマゾなんだよ。気ちがいか?」
クラス中の視線の集中砲火を受けながら、しかし当人は、毎朝と変わらない調子で、静かに真っ直ぐと自席へと向かうと、鞄を机に掛けて、椅子に座った。まるで、いつもと変わらないルーティンの中、俺達の方が何を戸惑っているのだ、と言わんばかりの態度で。
「話しかけてみよっかな」
「止めろよ」
がたりと椅子から立ち上がる東の手を、思わず握って引き止めると、彼の視線がちらりと俺を伺う。俺を見下ろすその眼光は、酷く冷え切った青だった。
「止めろって。あからさま過ぎるだろ……」
怖い。本能的に察知してしまう防衛本能に、俺は視線を外して、そう呟く。東はふぅん、と頷き「ま、そーだな」と、静かに椅子に腰を下ろした。
東が腰を下ろすと、俺は心底安堵して息を吐くと、盗み見るように一瞬だけ志村に視線を投げた。彼は新しく公開された動物を観るような、好奇心に溢れた眼差しを受けながら、真っ直ぐと黒板を見つめている。大きな背中を少し丸めて。
一体何を考えて、その顔で学校に来たんだ。
頭がおかしくなったんじゃないか?
俺は舌打ちしたくなる気持ちを抑えて、志村の肩先を睨みつけた。
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